美術科 工芸コースDepartment of Fine Arts Crafts

[優秀賞]
上坂涼乃|spoon to carve
千葉県出身 
坂井直樹ゼミ
210×23×23  洋白 真鍮 銀 ウォールナット

人は、食べるものの見た目にこだわるのに、食べる道具についてこだわりをもつ機会は意外と少ない。はじめの一口を変える道具があってもよいのではないか。幼少期「食べ物で遊ぶな」と言われていても、食べ遊びは新しい世界を“味”せてくれ楽しかった。今でもオムライスに何を描こうか考える高揚感はクセになる。この道具は、日々のクスッとした瞬間や発見を思い出す「彫刻スプーン」。たくさんの刃先は、食事に新たな味覚を与える。


坂井 直樹 准教授 評
この作品は、彫刻をするスプーンである。つまり「道具」である。
道具となると「さが」とも言うべき制約が隣り合わせだ。作者が制作する上で大事にした「使い勝手」と「ユニークな発想力」。勿論使い勝手と遊び心は相反するものではないが、どちらかを追求すると片方の要素とは離れていくようなものである。しかし作者は金属造形で培った表現のもと「使う楽しみ」と「ユニークな発想力」を見事に融合させた。今回の受賞作品は、それが並べられた卓上の賑わいを想像させ、その場に居る皆を笑顔で繋ぐ雰囲気を演出するに充分な企みに満ちている。使い手という「人」をもてなそうという気持ち、「人」と「人」を結びつけようという気持ちにあふれたこの作品は、作者の気持ちの豊かさを感じさせてくれて嬉しい。今後作者が、金属工芸というジャンルの中で、暮らしに寄り添った更なる喜びを与えてくれる作品を生み出してくれることを願って止まない。