お詫び
いつもは毎月25日前後にこのコラムを更新しておりますが、今号につきましては、美味しいリンゴをあちこち探し回っていたため、更新が遅くなってしまいました。どうもすみません!
秋のweb授業
大学の後期の授業が始まり、最近やっと涼しい風が吹くようになった。秋である。学生も教員も皆ようやく学校モードにふたたび切り替わり、本来のペースと勘を取り戻したなあ。と感じる時期がまさに今である。
では、読者のみなさまにも、英語の授業をちょっぴりどうぞ。web授業だ!
英語の“simile”すなわち「直喩」をいくつご存じでしょう?これは“as”や“like”を用いる表現のこと。たとえば、日本語でいうところの「カモシカのような脚」といった感じ。それでは、練習問題。「OOOのようにcool」のOOOにはどのような英単語が入るか考えてください。
(1) drink like OOO「OOOみたいに飲む=お酒をたくさん飲む」
(2) eat like OOO「OOOみたいに食べる=とても小食」
(3) as cool as OOO「OOOのように冷静」
(4) as cold as OOO「OOOのように冷たい」
(5) as cute as OOO「OOOみたいにかわいい」
(6) as American as OOO「OOOのようにいかにもアメリカ的な」
?
?
?
?
?
はい。それでは正解です。
(1) a fish, (2) a bird, (3) cucumber, (4) ice, (5) a button, (6) apple pie
なんとも面白いですね。「鳥のように小食」のように、日本語の感覚でも納得できる英語の表現もあるものです。しかし「キュウリのように冷静」と言われてもどこかマヌケに感じます。「(洋服などにつける)ボタンのようにかわいい」なんて表現は、英語独自なものでしょうか。言葉や文化が異なると、ものごとをとらえる感覚も変わってくるのですね。以上、秋のweb授業はここまで。
アップルパイはアメリカの味
さて、今回のこのweb授業で触れたとおり、アメリカを象徴する食べ物といえばアップルパイなのである(日本だったらやっぱりみそ汁とかでしょうか)。なので今回は、ドン?マクリーン(Don McLean)の1971年の壮大な1曲「アメリカン?パイ(American Pie)」を聴いてみましょう。
壮大な1曲と紹介したとおり、この曲は長い。1曲がシングルレコードのA面とB面にわたって続くほど長い。そして「音楽が死んだ日」という一節が登場するのだが、それは1959年の2月3日、ミュージシャンのバディ?ホリー(Buddy Holly)が飛行機事故で亡くなった日のことを歌っているというのはよく知られた話である。その箇所が含まれる詩の最初のスタンザをみてみよう。
A long, long time ago
昔むかしのこと
I can still remember how that music
今も覚えている あの音楽が
Used to make me smile
あんな風にぼくを笑顔にしてくれたこと
And I knew if I had my chance
ぼくはわかっていた チャンスがあれば
That I could make those people dance
ぼくだってみんなを踊らせることができるって
And maybe they’d be happy for a while
みんなしばし楽しい気分になってくれるだろうって
But February made me shiver
けど 2月 ぼくは震えた
With every paper I’d deliver
ぼくが配達する新聞には
Bad news on the doorstep
玄関先に悪い知らせ
I couldn’t take one more step
もう一歩が踏み出せなくなった
I can’t remember if I cried
あのときぼくが泣いていたかは思い出せない
When I read about his widowed bride
未亡人の花嫁の記事を読んだとき
But something touched me deep inside
僕の心の奥の何かが揺れた
The day the music died
音楽が死んでしまった あの日
ひんやりした空気を感じる詩である。自分のアイドルであったミュージシャンの訃報が載った新聞をみて、世界が変わってしまったような冷たい衝撃。温度が急になくなっていくような感じを見事に表していると思う。
ここでその訃報が歌われているバディ?ホリーは、ジョン?レノンのアイドルでもあった。The Beatlesという名前の由来もここにある。カブトムシ(beetle)とビート(beat)の言葉遊びはホリーのバンドのクリケッツ(Crickets)、つまり、コオロギ(cricket)とスポーツのクリケット(criquet)のかけことばに倣っているものだし、デビュー前にビートルズはホリーの曲のカバー(“That’ll Be the Day”はビートルズの『アンソロジー 1』で聴ける)も録音している。若い頃のジョン?レノンはホリーの黒縁メガネも真似ていた。天才は大いなる模倣にはじまると、いうわけだ。
そして曲は、1つの時代の終わりに別れを告げるような、なんとももの悲しいコーラス部に続いていく。
So, bye-bye, Miss American Pie
さよなら、ミス?アメリカン?パイ
Drove my Chevy to the levee, but the levee was dry
堤防まで愛車のシボレーに乗って、けど、堤防は干上がってて
And them good ol’ boys were drinkin’ whiskey and rye
仲間たちはウィスキーを飲んでいた
Singin’ “This’ll be the day that I die”
「今日がオレの死ぬ日になる」って歌いながら
This’ll be the day that I die”
「今日がオレの死ぬ日になる」
ビートルズもカバーしたホリーの歌へのオマージュを含みながら、すべてが輝いて見えていた古き良き50年代のアメリカの終わりを遠い目で見ている、という構図がここにある。ミス?アメリカン?パイとは誰かという議論もかつて多くなされていたが、やはりこれは、輝く未来が広がっているという幻想のなかにいた50年代までのアメリカにさよならを告げていると解釈するのがいいのではないだろうか。この曲が発表されたのは1971年。ケネディが暗殺され、ヒッピーが出てきて、核家族も増え、ベトナム戦争もはじまり、かつてアメリカを支配していた価値観は崩壊し、いよいよきな臭い時代に突入していった最中の曲である。「あの頃が実は一番良かったのかもしれない」という気持ちに寄り添ってくれたもの、それがアメリカ人にとってはアップルパイだったのだろう。
そして、どんなに時代や社会構造が変化しようとも、アメリカン?パイ、つまり、アップルパイの味だけは変わらずアメリカを象徴し続けているというのは興味深い。というか、ひとの味覚というものだけは、そう簡単に変わらないものなのだろう。そういえば、わたしが昔ホームステイしていたアメリカ人の家庭でも、よくアップルパイを出してもらっていた。嗚呼、あの頃はよかった。アップルパイが食べたいです。
学食コラボ企画第2弾
懐かしきアメリカ時代を思い出したら、どうしてもアップルパイが食べたくなったので、芸工大が誇る学食にお願いしてみました。そしてこのたび、前回のハンバーグランチに続く学食と「かんがえるジュークボックス」のコラボ企画?第2弾が始まります!
あたたかいアップルパイに冷たいアイスクリームを乗せて食べるという、禁断のアメリカン?グルメ。学食2階COPAiN(コパン)でご提供。期間は11月11日~15日。お値段は400円です。どうぞ、アメリカや昔の懐かしい日々に思いをはせながらお召し上がりください。
それではまた。次の1曲までごきげんよう。
Love and Mercy
(文?写真:亀山博之)
BACK NUMBER:
第1回 わたしたちは輝き続ける~ジョンとヨーコの巻
第2回 バス停と最新恋愛事情~ザ?ホリーズの巻
第3回 孤独と神と五月病~ギルバート?オサリバンの巻
第4回 イノセンスを取り戻せ!~ザ?バーズの巻
第5回 スィート?マリィは不滅の友~フレイミン?グルーヴィーズの巻
第6回 ツンデレな愛をかんがえる~ザ?ビートルズの巻
第7回(芸工祭直前edition) ゲットしに来て!~バッドフィンガーの巻
第8回(芸工祭報告edition) 浦島と美女をめぐる仮定法~ブレッドの巻
第9回 夢見る人~ニッキー?ホプキンスの巻
第10回 脱構築 DE ビートルズ~ザ?ビートルズ?その2の巻
第11回 年末年始はファンキーに!~イーグルスの巻
第12回 自転車でいこう~クイーンの巻
第13回 卒業の先に~サイモン&ガーファンクルの巻
第14回 船出のとき~ロッド?スチュワートの巻
第15回 恋の縦横無尽~クリストファー?クロスの巻
第16回 田舎へ行こう~キャンド?ヒートの巻
第17回 ハンバーグ?ランチはいかが?~プロコル?ハルムの巻
第18回 宇宙からのメッセージ~デヴィッド?ボウイの巻
第19回 体の知れない電波を操れ!~レッド?ツェッペリンの巻
第20回<臨時増刊号> 西洋と東洋の出会い~ジョン?レノンの巻
第21回<芸工祭直前号> 物質世界を越えてゆく~ロニー?スペクターの巻
第22回 9月のあの日~アース?ウィンド&ファイアーの巻
亀山博之(かめやま?ひろゆき)
1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。
著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。
趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。
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