今年の干支は?
Happy new year!
みなさま、今年もどうぞよろしくお願いいたします。
お屠蘇気分を味わったのもつかの間、もう1月も後半。時のながれのいかに早いことか。なにはともあれ、また新年を迎えたのだ。今年は何年?そう、巳年だ。ヘビだ。Snakeだ!
十二支。その1年を表す動物があるというのは、あらためて考えると興味深い。その昔、干支の12の動物の順番を決めるレースがあったそうで、牛のあたまの上にちょこんと乗っかったネズミがゴール直前にジャンプして1等になったから干支はねずみ年から始まるんだよ、とか、ネコはそもそもそのレースに呼ばれなかったから干支にいないんだよ、とか、子どもの頃そんな話を聞いたことがある。
昨今のネコ好き人口の増加をかんがえれば、十二支にネコがいたら、一番人気の年になりそうな気がする。わたしもネコが好きである。19年10ヶ月生きてくれたわたしの愛猫トッティは、目に入れても痛くない存在であった。
スコットランドの寅さん
干支に猫年がないのはやはり不満である。でも、その不満を少し解消してくれる曲がある。歌うのは、スコットランドのシンガー、アル?スチュワート(Al Stewart)だ。レコードジャケットの上のほうに小さく「旅情と恋をリリカルに歌ったシンガー?ソングライター」とある。まるで『男はつらいよ』の寅さんの紹介文みたいだ。旅して恋してフラれる、というテンプレートは山田洋次監督の偉大な発明だった。そんなことはさておき、そのスコットランドの寅さんことアル?スチュワートが1976年に発表したのが「イヤー?オブ?ザ?キャット(Year of the Cat)」つまり「猫年」の歌である。
この猫年の歌、ピアノにギターにサックスにストリングスが合わさった、非常に爽やかでキレイな楽曲だ。当時流行っていた“AOR(アダルト?オリエンテッド?ロック)”にジャンル分けされるであろうもので、すなわち大人向けロックというだけに、洗練されて品のある響きが売りである。詩の内容もなかなか「大人向け」だ。猫年生まれの謎の女が現れて、きみはその彼女に魅了される。で、最後には別れる運命がチラつくのは寅さんゆずりである。
On a morning from a Bogart movie
ハンフリー?ボガードの映画のようなある朝
In a country where they turn back time
昔にタイムスリップしたとある国で
You go strolling
きみは散歩に出る
through the crowd like Peter Lorre
人ごみのなか ピーター?ローレのように
contemplating a crime
犯罪についてかんがえながら
She comes out of the sun in a silk dress
彼女はシルクのドレスを着て太陽から現れる
running like a watercolor in the rain
雨の中の水彩絵の具のように走って
Don’t bother asking for explanations
説明は求めないで
She’ll just tell you that
彼女はただこう言うだろう
she came in the year of the cat
猫年生まれなのよって
十二支にネコはおりませんが、猫年生まれを自称する女が登場しましたよ。謎めいています。謎は不安を煽るものですが、好奇心をも煽るため、魅力も2割増しになるのかもしれません。というわけで、曲が進行するとともに、きみは彼女に首ったけになっていくのです。
She doesn’t give you time for questions
彼女は質問の時間なんてくれないんだ
As she locks up your arm in hers
彼女はきみの腕をしっかりつかまえるもんだから
And you follow
きみは付いていくことになる
till your sense of which direction
どこに向かっているのか
Completely disappears
完全にわからなくなるまで
By the blue tiled walls
青いタイルが貼られた壁のそば
near the market stalls
マーケットのお店の近く
There’s a hidden door she leads you to
隠れとびらがあって、彼女はきみをそこへ連れて行く
These days, she says, I feel my life
最近ね、と彼女が言う「人生って
just like a river running through
猫年を流れる
The year of the cat
川みたい」
Why she looks at you so coolly
どうして彼女はきみをこうもクールな目で見るのか
And her eyes shine like the moon in the sea
彼女の目は海の月のように輝いている
She comes in incense and patchouli
彼女はお香とパチョリのにおいをさせて現れる
So you take her,
そしてきみは彼女を連れ出す
to find what’s waiting inside
猫年には何が待ち構えているのかを
The year of the cat
知りたいから
女はお香とパチョリのかおりがするという。香害が社会問題になっている今日ではあるが、この猫年の女のかおりはいったいどんなだろうか。頭が痛くなるような香りではイヤだなあ、けど、いいにおいだったら、きっとかなり独特な部類の香りなんだろうな、と詩の中の猫年の架空の女なのに関心を高めてしまっている自身にふと気がついた筆者である。
Well, morning comes
で、朝が来て
and you’re still with her
きみはまだ彼女と一緒にいて
And the bus and the tourists are gone
バスと観光客はみんないなくなって
And you’ve thrown away your choice
きみは選択肢はもう捨ててしまったし
and lost your ticket
チケットも失くしたし
So you have to stay on
ずっといなきゃいけない
But the drumbeat strains of the night remain
けれど、夜のドラム?ビートの余韻はまだ残っている
In the rhythm of the new-born day
新しい一日のリズムのなかに
You know sometime
いつか
you’re bound to leave her
きみは彼女と別れないといけない
But for now you’re going to stay
でも、今は、きみはとどまるつもり
In the year of the cat
猫年のこの1年
Year of the cat
猫年に
猫年の女とは一体???謎を残しつつ、タイやベトナムでは卯年のかわりに猫年を設定しているそうだ。ちなみに、次の猫年は2035年である。
予告編公開
わたしが所属するピアノ連弾ユニット「夕ヶ谷姉妹」は、今年の芸工祭に出演予定です。昨年は雨でリサイタルが中止となり、誰もその姿を知らないまま2025年を迎えたわけですが、予告動画がやっと完成。
撮影場所はやまがたクリエイティブシティセンターQ1。Q1オープンにあたり修繕された1927年製のベヒシュタインピアノをお借りして演奏しています。Q1、そして、山形市へ、撮影へご協力いただきまして感謝申し上げます。なお、お揃いのワンピースの衣装があるのですが、今回は諸事情によりわたしだけ着ています。ご覧ください。
夕ヶ谷姉妹の予告動画(製作:夕ヶ谷企画?sister#3 mori)
さあ、新年が始まりました。次の猫年をめざして、まずはこの巳年を楽しく過ごしましょう。Here’s looking at you, kid! (きみの瞳に乾杯!)
それでは、次の1曲までごきげんよう。
Love and Mercy
(文?写真:亀山博之)
BACK NUMBER:
第1回 わたしたちは輝き続ける~ジョンとヨーコの巻
第2回 バス停と最新恋愛事情~ザ?ホリーズの巻
第3回 孤独と神と五月病~ギルバート?オサリバンの巻
第4回 イノセンスを取り戻せ!~ザ?バーズの巻
第5回 スィート?マリィは不滅の友~フレイミン?グルーヴィーズの巻
第6回 ツンデレな愛をかんがえる~ザ?ビートルズの巻
第7回(芸工祭直前edition) ゲットしに来て!~バッドフィンガーの巻
第8回(芸工祭報告edition) 浦島と美女をめぐる仮定法~ブレッドの巻
第9回 夢見る人~ニッキー?ホプキンスの巻
第10回 脱構築 DE ビートルズ~ザ?ビートルズ?その2の巻
第11回 年末年始はファンキーに!~イーグルスの巻
第12回 自転車でいこう~クイーンの巻
第13回 卒業の先に~サイモン&ガーファンクルの巻
第14回 船出のとき~ロッド?スチュワートの巻
第15回 恋の縦横無尽~クリストファー?クロスの巻
第16回 田舎へ行こう~キャンド?ヒートの巻
第17回 ハンバーグ?ランチはいかが?~プロコル?ハルムの巻
第18回 宇宙からのメッセージ~デヴィッド?ボウイの巻
第19回 体の知れない電波を操れ!~レッド?ツェッペリンの巻
第20回<臨時増刊号> 西洋と東洋の出会い~ジョン?レノンの巻
第21回<芸工祭直前号> 物質世界を越えてゆく~ロニー?スペクターの巻
第22回 9月のあの日~アース?ウィンド&ファイアーの巻
第23回 アメリカの味~ドン?マクリーンの巻
第24回 素顔のノーマ、素顔のダイアナ~エルトン?ジョンの巻
第25回 ダビデとタイプライター~レナード?コーエンの巻
亀山博之(かめやま?ひろゆき)
1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。
著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。
趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。