約15万冊の蔵書数を誇る「東北芸術工科大学図書館」。芸術やデザインに関するものはもちろん、学術文献なども数多く所蔵しており、本の閲覧に関しては一般の方々にも開放されています。さらに、図書館発信の企画展示や学生利用促進のためのイベントなど、幅広い学びの機会も多く提供。そんな本学図書館の特徴や日々取り組んでいる活動について、図書館員の皆さんにお話を伺いました。
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学生からの人気も高い多彩な企画展示
――はじめに本学図書館の特徴を教えてください
図書館員:約15万冊の蔵書の内、美術大学なので芸術分野の本が約3割を占めていて、画集や展覧会の図録などが数多くあります。それから文献研究を行う学科もあるので学術文献なども多く集めていますし、民俗学的な資料も豊富で、東北の文化?歴史?宗教を意識した蔵書構成は美大でもめずらしいのではないかと思います。
――そういったジャンルのものが揃っていると、「本を閲覧したい」という一般の方も結構いらっしゃるのでは?
そうですね。時々問い合わせをいただきますし、山形県内だけでなく東京や横浜から浅田文庫を見に来られる方もいらっしゃいます。浅田文庫というのは、1960年頃に活躍した浅田孝氏という建築家のご遺族から譲り受けた約3千冊の蔵書のことで、今ではなかなか手に入らないような資料なども多くあるので、たまに海外の方からも問い合わせをいただくことがあります。それから、本学で指導されている教職員の方々についても、情報を集めて著書などを購入するようにしています。学生さんにはぜひ先生方の業績を知っていただきたいので。
――普段はどういった学生たちが主に図書館を利用していますか?
やはり文献研究を行う文化財保存修復学科や歴史遺産学科の学生、また絵を描いたりものをつくったりする学生さんがよく画集を見に来られたりします。また、シンプルに詩集や小説を借りに来る学生さんは文芸学科に限らず多くいますし、あとは昔からグラフィックデザイン学科の学生さんもよく本を使っている印象があります。
――館内には自習スペースも多く確保されていますね
そうですね。Wi-Fiが使えるのでここでオンライン授業を受けたり、課題に取り組む場所として使用したりしている学生さんが多くいます。また授業期間中は8時45分から21時まで開館していて、一日中使えるのも大きいのではないかと。ちなみに土曜は17時まで、日曜は休館となっています。
――そんな様々な使い方がある図書館ですが、テーマに関連した本を特集する「企画展示」にとても力を入れていると伺いました
館内の様々な本を手に取ってもらいたいので、企画展示は常に開催しています。毎年定番で行っているのが、新入生が大学生活を円滑に進められるよう、レポートの書き方とか一人暮らしの仕方が分かる本を展示する企画ですね。それから隔年で開催している『山形ビエンナーレ』に合わせてその関連本を展示したり、教職員の先生方が書かれた本を集める特集を組んだりもしています。
あとは1年生の授業で、おすすめの本を紹介し合って誰のプレゼンが一番面白かったかを決める『ビブリオバトル』というものが行われるので、それと連携して授業で紹介された本を集めて展示するということをやっています。このビブリオバトルは図書館の中から本を選んでもいいし、自分で持っている本を紹介してもいいので、本のジャンルもすごくバラバラなんです。マンガもありますし、その本人にとって本当に大事にしてきた一冊なんだろうなっていうのが分かる渋い選択のものもあったりして、学生目線みたいなものがすごく表れるコレクションになっていると感じます。
――マンガも閲覧可能なんですね
学生であれば借りることも可能です。そんなにたくさんはないですけど、学生からのニーズに合わせて名作と言われるような『AKIRA』だったり手塚治虫氏のマンガだったり、卒業生の藤本タツキさんが描いているマンガも少しずつ増やしているところです。あとは美大を舞台にした『ブルーピリオド』なども人気ですね。
――企画展示のテーマはいつもどのようにして決めていますか?
基本的には学校行事とリンクしているようなもの、それから学生や教職員が関わっているイベントに合わせて企画することが多いですね。例えば学生がポスターデザインやスタッフとして関わっている『山形国際ドキュメンタリー映画祭』関連の展示だったり、先日まで天童市美術館で行われていたアルフォンス?ミュシャの展示に本学が関わっていたということでそれに絡んだ展示をしたり。あとは季節に絡んだ企画テーマを設けることも多いです。怖い本の企画を夏に展開したり、雪が降る季節は冬ごもりの本を特集してみたり。
――そういった企画展示を始めたのはいつ頃から?
活発に展開するようになったのは2014年ぐらいからと記憶しています。現在はいろんな企画が7~8個同時に進行しているような状況ですね。ここには図書館員が7名いるんですけど、いつも一つのテーマに対してイメージする本がそれぞれ全然違うんです。なのでテーマにすごく広がりが生まれて、お互い「え、こんな本あったの!?」とか「その本、どこから持ってきたの!?」みたいなことがよく起こります(笑)。
――なぜ2014年頃から活発化していったのでしょう?
おそらくですが、本の利用が2014年をピークに減ってきているので、その頃から“見せる展示”というものを少しずつ工夫していったんだと思います。特に意識していたわけではないんですが、今思うと図書館のあり方というのをいろいろ考え始めた時期だったんじゃないかな、と。インターネットが流行して、娯楽もどんどん増えて、世の中が「本だけじゃない」というふうになっていましたから。
ここ2~3年は私たちも企画展示に向けて加速している感じで、やればやった分だけたくさん反応が返ってくるので、やっぱり豊かな感性を持つ学生さんがすごく多いんだなというのを実感しています。書架に並んでいるだけでは分かりにくい本でも、企画展示を通して目に見える場所に置くことで手に取ってもらえるようになるので、これからもぜひ続けていきたいと思います。
イベントを通じた図書館への入口づくり
――図書館から文化発信を行う『Open Library』という取り組みにも力を入れているそうですね
教員で構成された図書館検討部会(部長:吉田朗教授/基盤教育研究センター長)というワーキンググループ発案のもと始まりました。イメージとしては名前の通り、図書館の中だけで完結するのではなくそこから外へ出て行こう、図書館を外に開いていこうというもので、多くの学生さんに図書館のことを知ってもらえるよういろんな企画やイベントを行いながら、関わりを持ってくれる人を増やす活動を続けています。
これまでの取り組みも多彩で、先生をゲストに招いてのトークショーや、『放課後らくご』という文芸学科のサンキュータツオ先生をナビゲーターにした落語の鑑賞会。また卒業生と在学生が作成したポートフォリオの展示『わたしのみかた TUAD PORTFOLIO LIBRARY』や、瀬戸けいた准教授企画、岡野晃子氏監督の『手でふれてみる世界』の上映会に関連した企画展示などを行ってきました。
放課後らくご ナビゲーターのサンキュータツオ専任講師(文芸学科)と一緒に、落語の寄席動画を視聴する企画。演目視聴の後に解説トークを聞けるので初心者でも楽しむことができ、毎回多くの学生?教職員が訪れている。図書館内には、関連本を紹介するコーナーも設置されている。【2024年12月も開催予定! 12月18日(水)19:00~19:40】
さらに図書館を外に開いていくためのイベントとして、『ひと箱古本市』を図書館前の通路で不定期開催しています。これは0円から100円までの安価な価格幅で学生に古本を販売するというもので、前回は教職員の方々や学長にもお越しいただき大変な賑わいになりました。
図書館員としてエプロンをつけてカウンターにいる時はすごくかしこまった感じで声をかけてくるような学生たちが、古本市ではすごく積極的に話しかけてくれて、同じ本が好きという話題で一緒に盛り上がるなど、立場の垣根を越えた交流が生まれています。学生さんも「楽しかった」と言葉で伝えに来てくれるので、私たちもとても楽しく続けられています。
――“図書館は静かにしなければならない場所”という感覚があるからこそ、学生もついかしこまってしまうのかもしれませんね
だからこそ図書館をそうやって外に開くことで、学生側にもこちら側にも開放感みたいなものが生まれるのかもしれません。
――学生たちに期待することや今後の図書館のあり方について、何か考えていることがあれば教えてください
「15万冊もあると何を選んだらいいか分からない」という学生さんは多いと思います。それでもイベントを入口に図書館の中へ入ってきてもらえている実感はあって、一時的な関心にとどまらず継続的に図書館と接点を持ってくれるきっかけになっていると感じます。最終的には学生さんの方から「こんな企画どうですか?」と提案してもらえるようになったら嬉しいですし、図書館を通していろんなスキルや才能を発揮していってもらいたいですね。
あと、棚に入ったまま見過ごされている本ってたくさんあるんですけど、そういう本に触れる機会を増やすことも私たちの役割だと思っています。本と出会うことでその学生さんにいろんなものが生まれることを想像すると、やはり私たちももっともっとその魅力を伝えていきたいなと。大学の中にある一つの施設として、授業や极速体育直播_极速体育app-投注*官网との連携を大切にしながら、学生さんの学びを1年生のうちから支えられるような場所にしていきたいです。
本との出会いを作る、という意味ではちょうど『福袋』といって、例えば“旅の本”とか“徹夜本”といった感じで、テーマ別に5冊から10冊くらいの本をタイトルが見えないように袋の中に入れて、年末年始に貸し出すイベントを企画しているところです。今年の7月にも10テーマくらい並べたら、結構皆さんに借りてもらえて好評でした。学生さんには、こうしたイベントも楽しみにしていただければと思います。
――ちなみに今後開催してみたい企画やイベントなどはありますか?
昨年、T.I.P(TUAD Incubation Program/アーティスト育成プログラム)の学生さんたちが、制作したオブジェと一緒に自分が影響を受けた本を展示してくれたんですけど、すごく思い入れの強さを感じました。図書館にはそういう作品展示という使い方もあるんだということをこちらからも発信していきたいですし、もちろん学生側からも提案してほしいと思っています。以前は私たちも「図書館に作品を置いてもらうのは難しいかな」と自らハードルを設けてしまっていたところがあるんですが、T.I.Pの学生さんたちが作品を置いていく姿を見て、まだまだできることってあるんだなと。学内にある展示スペースとはまたちょっと違った形で使ってもらえる場所だと思うので、いろいろ活用してもらいたいですね。
また、図書館の2階にはDVDが並ぶメディアコーナーがあって、基本的には学生さんが個人のブースで観るような場所なんですけど、実はシアタールーム(AVルーム)も館内にあるんですね。上映できるのは館内にある一部の資料のみという制約はあるものの、学生だけで使えるので、時々「こんなのよく見つけてきたな」と思うような作品を観ている学生もいたりします。今後は図書館主導の上映会みたいなものも定期的に行えるとより面白くなるかもしれませんね。
――それでは最後に学生へ向けてメッセージをお願いします
図書館には雑誌もたくさんあって、自分ではなかなか購入できないような北欧のインテリア雑誌だったり、海外美術の最先端の状況を知ることができるものだったり、ちょっとページをめくるだけでいろんなことを知ることができます。それから新聞の種類も豊富で、全国紙?山形新聞?河北新報?英字新聞など各紙揃っているので、ぜひ新聞の価値も知ってほしいと思っています。ネット記事の真偽って分からなかったりしますけど、新聞や雑誌は「私が編集しました」という責任者の顔がしっかり見える媒体ですから、そういうものにちゃんと触れて違いを感じてほしいですね。
この図書館は決して本を借りたい人だけが訪れる場所ではなく、DVDを観てもいいし、勉強しに来てもいいし、ただ休むだけでも良くて。あと冷暖房もついてますから、これからの季節、アパートで寒い思いをしている学生がいたら「ここにおいで!」って伝えたいです。ぜひ気楽に図書館を使ってみてください。
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一人一人に学習の機会や学びの場所を提供したい―。8時45分から21時という長時間開館にはそんな思いが込められていると言います。学生にとってワクワクしたり、新しい何かを得られたり、また時に安らぎを感じられるような居場所が学内にあるというのは、4年間の极速体育直播_极速体育app-投注*官网を過ごす上でとても大きな支えとなるはず。「本の貸出冊数につなげたいというよりは、まず図書館のことを学生さんに知ってもらいたい、関わってもらいたいという思いで企画展示やイベントに取り組んでいます」と話してくださった図書館員の皆さん。多彩な企画やイベントを通じて出会った1冊が、もしかしたら极速体育直播_极速体育app-投注*官网、引いてはこれからの人生をより楽しいものに変えてくれるかもしれません。図書館の枠を越え、本と人とを結ぶ図書館にぜひ足をお運びください。
(取材:渡辺志織) 東北芸術工科大学 図書館東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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