映像学科の卒業生で、アニメ制作会社Production I.G でアニメーション制作に携わっている量山祐衣(かずやま?ゆい)さん。映画『鹿の王 ユナと約束の旅』や『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメ ロット- 後編Paladin; Agateram』など、時空を越えて人間に迫るProduction I.Gのアニメーション制作は、東京と新潟の2つのスタジオで行われています。量山さんは2014年に入社し、現在は出身地?新潟で原画のレイアウトや演出をチェックする作画監督として活躍しています。アニメの原画がつくられる工程や、作画の仕事のなかでの気づき、大学時代の恩師とのやりとりなどについてお聞きしました。
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作画監督になり、人それぞれの得意なところが見えてきた
――Production I.Gさんには新潟スタジオがあるのですね
量山:本社は東京にあるんですが、新潟スタジオの現チーフの方が、20年ほど前に地元に戻ることを決めて社長に相談したところ、「新潟にスタジオをつくればいいんじゃない?」と言われて立ち上げたそうなんです。地方でもアニメーションはつくれるということで。現在、新潟スタジオには、原画と動画の担当や作画監督の約30人が所属しています。他社製作のアニメから一部の回の制作を請け負うグロス回の作画などもやっています。
――アニメーションというのは膨大な手仕事によって出来上がっていると思うのですが、全体ではどのような工程になるのでしょうか
量山:監督さんや演出担当がまず絵コンテを描いて、その絵コンテをもとに原画さんたちが「作打ち」と言われる作画の打ち合わせを演出さんとするんです。細かい1パートはだいたい10カットから20カットくらいなんですが、演出が確定したところで原画さんがレイアウトを描いていきます。レイアウトというのは、画面上のだいたいの設計図のようなものですね。画面のなかに入る背景と人物、どんな効果を入れるかといった撮影に向けた指示を添えながら、キャラクターの動きや、キーとなる特徴的な動きを描いていきます。
そうしてできあがった一つひとつの設計図は、今度は背景担当の方に渡されて、撮影の方もその指示に基づいて撮影をするんですね。キャラクターと背景の原図に関しては、まず演出の人が確認して、この演出でいいよとなったら作画監督が確認してキャラクターを整えます。さらに必要であれば総作画監督も手を入れて、キャラクターの表情や身体つきなどを統一します。
その確認が終わると、作画監督の修正用紙は黄色、総作画監督の修正用紙はピンクといった具合に重ねられているので、原画さんがそのパートごとの修正を反映して一枚に清書するクリーンナップ作業を再び行います。それで原画工程は終了です。
演出と作画監督の確認を受けて清書された原画は、動画担当に渡されます。動画というのは、原画と原画のあいだを埋めて動きがさらに滑らかになるようカット枚数を増やしていく作業です。最終的には色をつけて背景と合わせて撮影されますが、作画に関しては、これが一連の流れですね。
――途方もない作業ですね。分担して作業されるなかで全体のイメージやキャラクターを共有するのは、とても難しそうです
量山:それを打ち合わせるのが作打ちなんですが、全体のイメージを見られるのはまだ絵コンテだけという状態なので、場面ごとのパートを原画担当のそれぞれが詳しく見ていく作業になるんですね。難しいのは、登場する人が多いとか、背景でたくさんの人が動いているような場面などでしょうか。
私自身が好きなのは日常芝居なので、アクションは少し苦手だったりするんですが、アニメーターそれぞれに得手不得手があるように思います。その人の好きな絵や特色がわかっていればそれを生かせるように割り振ってもらえたりしますが、むしろ大変なところをまかされてしまうこともときどきあったりしますね(笑)
――量山さんは作画担当として入社されたということですが、どのようなことをされていますか?
量山:作画で入社する人たちは、みんな動画担当からスタートするんです。動画では、カメラの切り替わりをカットと呼んでいて、1カットごとに担当が割り振られ、動きを滑らかにつなぐ絵を集中して描いていきます。アニメーションはあまりにも分業なので、最初は目の前の絵を描き上げることに精一杯でした。
でも去年、人気ゲームを映画化した『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 後編Paladin; Agateram』をProduction I.Gで制作したんですが、そのときに作画監督を初めてやらせていただいたんです。東京の本社に出向し、当初は原画の担当としてやる予定だったんですが、途中で作画監督が一人抜けて、「量山さんやってみないか」と声をかけていただいて。私なんかでほんとにいいのかなって泣きながらやっていましたが、そのぶんとても思い入れの強い作品になりました。
今、様々な作品の作画監督をやらせていただきながら思うことは、その人それぞれの得意なものがよく見えてくるなあということでしょうか。作画監督は原画さんの絵を2回見る機会があるんです。キャラクターよりも動きが得意な方がいたり、動きは苦手だけれど原画のクリーンナップ作業が得意という方もいらっしゃったり。すべての絵がうまいという人は、ごく稀にしかいないものなのだなあと思いました。
技術より発想力が養われた映像学科のアニメゼミ
――Production I.Gでアニメの仕事がしたいということは、早くから決めていたんですか
量山:就職活動をしているときからですね。アニメの仕事にかかわりたいと思ったのは、高校生の頃から。スタジオジブリさんの映画『崖の上のポニョ』を劇場で見て、こういうものをつくりたいなと思ったのがきっかけでした。それまでにも、小学生の頃は家に帰ったら毎日スタジオジブリのアニメを見ていたんですね。高校卒業後は大学生活をしたい気持ちが強くあったので、出身の新潟県村上市からも比較的近い芸工大を選びました。
――映像学科ではどのようなことを学びましたか?
量山:映像学科のカリキュラムでは、1?2年次に映像全般を幅広く学べて、3?4年次のゼミで専門的に学んでいくんですが、1?2年次にカメラの画角やライティング、ストーリーテリングの基礎などを学べたことが今すごく役立っています。また、4年次のアニメゼミでは、技術より発想力のほうが養われたような気がしています。正直、不真面目な学生だったので、担当教授の岩井天志先生からは、「いや、量山が映像業界に残るとは…」と言われました(笑)
実は卒業展示で大コケしまして、岩井先生に合わせる顔がないなと、就職後も2年ほど前まで連絡できずにいたんです。でも、仕事の原画の調子がだいぶよくなっていろんな方に頼ってもらえるようになり、作画監督になれるかもしれないというところまできて、ようやく顔向けできるかなと会いに行ったんですよ。そうしたら、岩井先生が私の報告を聞いてくださって、「まさか量山がなあ…」って(笑) 一人暮らしをしているので正直最初は生活維持が大変でだいぶ追い詰められていたんですが、ねばって続けて、親にも少しは恩返しできたかなと、今は本当によかったなあと思います。
あと、映像学科教授の加藤到先生は、大学時代の講義などももちろんですが教わったことが多く、人として尊敬しています。映画祭で新潟に来られた際には声をかけてくださったり、昔も今もあたたかい励ましに感謝しています。
――最後に、高校生や在校生の方々にメッセージをお願いします
量山:いろんなことに興味を持つとよいのではと思います。アニメは何でも描かなければいけないので、目に映るものすべてが資料だと思っているんです。例えば、「こういう雰囲気の場所を描いてください」と漠然と言われてぱっと具体的な場所が思い浮かぶとか、自分のなかに引き出しをつくっておくことがとても大事で。「ああ、あのときに行ったあそこがいいな」というふうに具体的なイメージを引っ張ってくることができるようになると一番いいなと思いますね。なので、美術館や博物館、公園などに行ったり、いろんなことに興味を持って吸収しておくとアウトプットにつながるように感じています。
でも、もしも大学時代の自分に今の自分が声をかけてあげるとしたら、「朝、ちゃんと起きなさい!」ということと、「溜め込まないで、早くメールを返信しなさい!」ということですかね(笑)
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撮影では、同僚の方としばしお話をとリクエストされると、原画を指差しすぐさま楽しそうに話し込んでくださった量山さん。机のまわりには多数の参考書籍が並んでいたり、写真家の作品ポストカードなどが貼られていたりと、アニメの造形やレイアウトに芸術や日常を様々に取り込んでいる様子が印象的でした。そして、アニメのリアリティは、そうしたアニメーターの方々の無数の経験や感動から構築されているのだと、あらためて感じることができました。
(撮影:布施果歩、取材:井上瑶子、入試広報課?土屋) 映像学科の詳細へ東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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