自分が挑戦してみたい展示の企画を、一から考え作っていける面白さ/花巻市博物館?卒業生 髙橋静歩

インタビュー 2023.03.03|

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誰が見ても分かりやすいものを提供したい

――はじめに、現在のお仕事内容を教えてください

髙橋:今は展示関係の仕事をはじめ、小中学生の見学の対応、またこちらから小中学校に出向いて授業を行ったりしています。それから一般の方を対象にした講座や、市内にある花巻城というお城のフィールドワーク、勾玉づくりなどのワークショップの対応なども行っています。

他にも時々「家系図を調べているんだけど」とか「こういう資料を見せてほしい」といった問い合わせをいただくことがあるのでその対応だったり、他の美術館?博物館?資料館などとの資料の貸し借りや調査を行う上でのやりとりなどもありますね。また、資料の寄贈や寄託について問い合わせいただいた場合、実際に調査しに行って寄贈や寄託を受けるかどうか判断したりしています。あとは展示室の電球を替えたりライトを調整したり、もう何でもやる感じですね(笑)。

花巻市博物館 髙橋静歩さん お話されている髙橋さん
花巻市博物館にてお話をされる髙橋さん

――学芸員のお仕事というのはとても多岐にわたるものなんですね

髙橋:自分でもたまに「何の仕事してるんだっけな?」って思うことがあります(笑)。 ただ、メインはやはり長いスパンで考えていく展示の仕事になりますね。展示のお仕事は大きく分けてテーマ展?特別展?共同企画展と3つあるんですが、学芸員などが企画立案するテーマ展に関しては、調査研究の成果や市民の声、その時の話題などを考慮しつつ自ら展示の内容や構成を考えて資料を選んだり、パネルの文章を作ったりしています。先日当館で開催した「花巻のやきもの ―縄文から現代―」というテーマ展も、企画立案からポスター作成まで私の方で担当させていただきました。花巻市内の遺跡から出土した縄文土器、そして現代の陶芸作家の作品に至るまで、時代を通じて花巻にゆかりのあるものを展示し、やきものの歴史や文化に触れられる内容にしました。

花巻市博物館 髙橋静歩さん お話されている髙橋さん
髙橋さんが制作した「花巻のやきもの ―縄文から現代―」ポスター

――これまで手がけられた展示の中で、より印象に残っているものはありますか?

髙橋:一つは学芸員になって初めて担当させてもらった、江戸時代から作られている花巻人形という土人形の展示ですね。これは当館の春の定番の展示なんですけど、私の専門分野ではなかったので、とにかく実際に資料を見たり調べたり、過去の展示を参考にしたりしながら準備を進めました。3,000点以上ある候補の中からどれを選んでどう構成し、どう紹介するか。それを考えていくうちにすごく興味が出てきて、だんだん面白くなっていって。そしたら初めての展示だったにもかかわらず、お客様に記入していただいたアンケートに「今まで見たことのないものがあって良かった」という言葉があったり、尊敬している館内の方から「良いセンスだね」と褒めていただいたりして、すごく嬉しかったです。それで何となく自信を持つことができました。

そしてもう一つは、2019年に担当した『発掘された日本列島』という全国を巡回する特別展になります。これは、近年の発掘調査において特に注目された出土品を中心に展示を構成するもので、全国各地、かつ最先端でお仕事されている方々から多くの刺激をいただいて、私自身すごく成長することができました。また開催館がある地域独自の展示も一緒に組み込んで構成することになっているため、その時は花巻城を中心に、岩手県や青森県にある盛岡藩?南部氏に関係するお城などをあわせて紹介しました。

――そういったお仕事をされる中で、日々大切にしていることは?

髙橋:展示の仕方やパネルの文章はもちろん、館内で回覧する文章に至るまで、大きいことであっても小さいことであっても見る人が分かりやすいものを作るよう心がけています。例えば「小学6年生でも分かるように」とか「今回の講座は大人の参加者なので少し難しい言葉を使ってもいいかな」とか、その時の内容に合わせて、受け取り手がわかりやすく見やすいものを常に考えるようにしています。

花巻市博物館 髙橋静歩さん 業務中の髙橋さんの様子
花巻市博物館 髙橋静歩さん 業務中の髙橋さんの様子

――このお仕事の魅力を教えてください

髙橋:自分がやってみたいと思った展示の企画を、一から考え作っていけるところですね。それができあがって、見ていただいたお客様から「良かった」とか「面白かった」といった声を実際に聞けた時はとてもやりがいを感じますし、安心します。やっぱり始まるまでは、どうしても不安になってしまうんですよね。なので見た方?聞いた方が満足そうな表情をされていたり、特に子どもたちが楽しそうにしているのを見た時はすごく嬉しくなります。 それから職場の雰囲気もとても良くて、お互い助け合いながら仕事できているので、いつも働きやすさを感じています。

花巻市博物館 髙橋静歩さん 同じく歴史遺産学科卒業生の因幡さんと
同じく歴史遺産学科卒業生の因幡さんと

肯定的に捉えてもらえるからこそできた挑戦

――芸工大ではどんな研究をされていたんですか?

髙橋:奈良時代などの古代に生産されていた土師器(はじき)という土器があって、それは岩手県内でも発見されているものなんですけど、その土師器の中に、ベンガラという赤い顔料で色を塗られていたり、壺などの口縁部に縦縞の模様が描いてあったりするちょっと特徴的なものがあるんですね。それは古代、東北で蝦夷(えみし)と呼ばれていた人たちの暮らしに関わる土器で、その蝦夷についての研究会に芸工大の先生と一緒に参加したのを機に、興味を持つようになりました。卒業研究は地元の資料を使ってやってみたいという思いがあったので、この赤彩(せきさい)土器の研究を行うことにしたんですけど、その資料調査の際、岩手県内の学芸員さんにはとてもお世話になって。中でもここ花巻と北上の学芸員さんには本当に良くしていただきました。卒業してから大分時間は経ちましたが、その学生の頃の縁がまたつながって今があるのかな、と感じているところです。

花巻市博物館 髙橋静歩さん 業務中の髙橋さん

――当時の学びの中で思い出に残っているものは?

髙橋:野焼きで土器づくりをするという北野博司先生の実験考古学の授業があって、それがすごく印象に残っています。大学の演習室の中で作っていたんですけど、私は授業だけでなく土器を作るチュートリアルにも入っていたんですね。そこでみんなと「土器以外のものも作ってみたいね」という話になって、何かないかなと思っていた時に、北野先生の部屋かどこかにあった報告書にかわいい埴輪の復元が載っているのを見つけたんです。それは群馬県にある保渡田八幡塚古墳群というところの埴輪で、それをみんなで真似して野焼きで作ってみようということになって、授業が終わってから10人くらいで作って焼いて。その埴輪は実際当時は野焼きではなくて埴輪窯で焼かれたものだったんだと思うんですけど(笑)。そしたら遊びで始めたはずが、だんだん企画みたいな感じで広がっていって、結果的に保渡田八幡塚古墳群の施設に展示させていただけることになったんです。気付いたら大きいことになっていました(笑)。

花巻市博物館 髙橋静歩さん 歴史遺産学科の授業の様子
歴史遺産学科の土器調理実験授業の様子

そういう面白いことができたのは、やっぱり芸工大だったからだと思っています。北野先生は何でも「お、やってみろ」と言ってくださる方で、もし失敗したとしても、それをいつも肯定的な方向に捉えてくださっていたので、すごくチャレンジしやすくて楽しかったですね。だからこそ仕事をしている今も、失敗したりうまくいかないなと思うことがあった時、それを一つの経験というか糧にして次へ進んでいこうという考え方ができているのかなと思います。私の専門は考古学ですけど、違う分野についてもやらないといけないことはたくさんあるので、そういう時に「よし、やっていこう!」という気持ちになれるというか。知っていることが増えれば、対応できることも増えますしね。

――今後の目標などあれば教えてください

髙橋:これからもいろんな展示をやってみたいですし、市民の方や花巻を訪れた方々にもっと博物館に来ていただきたいと思っているので、花巻の歴史や文化財についてしっかりアピールできるよう頑張っていきたいです。花巻というと宮沢賢治がよく知られていますが、花巻にゆかりのある先人は他にもいますし、遺跡や歴史史料などもいいものがたくさんあるので、ぜひ花巻のいろんな分野に目を向けていただけたら嬉しいです。そしてそれをできるのが、この花巻市博物館だと思っています。

――最後に、芸工大を受験する後輩たちへアドバイスをお願いします

髙橋:多分、人生の中で一番自由に時間を使えるのが大学での4年間だと思うので、アンテナを張って、自分の興味あることや面白いと感じることに、挑戦したり参加してみたりしてほしいですね。その中でもし「ちょっと失敗したな」と思うことがあっても、それは一つの経験になるはずですし、それも含めて楽しめるのが芸工大だと思っています。ぜひ有意義な极速体育直播_极速体育app-投注*官网を送ってください。

花巻市博物館 髙橋静歩さん 業務中の髙橋さん

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子どもの頃、岩手県立博物館で見た縄文の竪穴住居跡の復元に感銘を受け、そこから土器を復元するような仕事に興味を持った髙橋さん。受験する高校を決める際、そのことを相談した中学の先生が教えてくれたのが、この学芸員という仕事だったと言います。「時間はかかりましたが、巡り巡って学芸員になることができました。こんなにたくさんの仕事があるとは思っていませんでしたけどね(笑)」。そんな髙橋さんの日々の仕事を支える、失敗を恐れずに挑戦を楽しむ姿勢。地元?花巻の魅力を広く伝えていくためのチャレンジからこれからも目が離せません。

(撮影:渡辺然、取材:渡辺志織、入試広報課?土屋)

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東北芸術工科大学 広報担当
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